お わ り に       孫 建明

 『静中動あり、動中静あり』、これは『武術』の根底に流れる共通した理念であり、技でもある。
 巨視的には百年一日の如く、一見何事も無かったかのように過ぎ去る歳月であるが、微視的には一日一日が練磨のための努力の積み重ねの毎日でもある。
 私が日本に来てから13年が過ぎ去り、40歳になった。人生80年とすれば、丁度その折り返し点に達し、論語的に言えば不惑の歳にも当たり、今年は私にとって記念すべき年である。
 来日して十年が過ぎたころに、本文中でも紹介した【10年を振り返って】なる小文を「東京太極拳協会広報誌」に載せた。 10歳の頃から中国武術を始め、12年間プロの選手生活をしてきたこと、中国武術隊では忍耐と努力の日々であったこと、そしてその後の[俳優]生活から日本での[中国武術コーチ]としての転進についても述べた。そしてさらに、中国武術の練習に当たっては、基本(基本功、基本動作、規格)を正確に修得することが最も重要であること、そうした指導方針のもとで、連続チャンピオンの座を保持してきた神庭裕里選手が育ったことにも触れた。
 この小文を載せてから2年余が過ぎ、この間に私にとっては大きな喜ばしい経験があった。その一つは、難関である『中国武術七段位』を母国北京で取得したこと、そして二番目には、長年その構想を温めてきた【中国武術】と【鳳仙功舞踊】との共演フェスティバルが実現したことである。
 40歳という区切りの年に、上で述べた事柄を含め、中国武術と共に歩んだ30年を写真集としてまとめた。ここでは、私自身の歩みもさることながら、私がプロとして体得した【中国武術】の代表的なものについて多くの頁を割いて紹介した。日本で普及している太極拳を除いては、他の【中国武術】に関する類書は日本で殆ど見当たらないからである。写真集「中國武術と共に三十年』はやや大よ段に構えた感はあるが、決して誇大な表現ではないと思っている。
 写真では表現しきれない部分については、文章や関連する資料類を適宜用いて30年の歩みの全体像が判るようにしたつもりである。
 『男子志を立てて郷関を出ず、学もし成らずんば死すとも帰らず』。これは、日本において、古来青少年を鼓舞するためによく用いられた言葉と聞いている。今はもうそんな時代ではないかもしれないが、志を立て、それを実現するために努力することの重要性は、今も決して失われてはいないと思っている。
 「一流のコーチになりたい」という初心は一応達せられたかもしれないが、前途なお道遠しである。次の目標に向かってさらに精進を重ねていきたい。