戦時中に生まれた「研究隣組・電子放射研究会」において、先生は主導的な役割を果たされ、カソードを中心とした電子放射研究会は昭和三十年代半ばまで続いた。先生は、昭和三十年近くまでカソードの研究に関わられたが、トランジスタの発明を受けて、単結晶を対象に半導体の研究が行われるようになってからは、次第に「半導体の物理」に本格的に取り組まれるようになり、国際的な場で数々の大きな業績をこの分野で挙げられていった。他方、"電子管の性能を上げる"ことを第一義とした「電子放射研究会」からは、結果として先生は次第に遠ざかっていかれるようなった。これは、時代の趨勢であった。しかし、応用物理を主体としたこの「研究会」は『源流』にも詳述してあるように、筆者の執念とでも言うべき責務感により、応用物理学会の「電子放射分科会」として継続的に引き継がれ、やがて「応用電子物性分科会」として生まれ変わっていった。そしていま、この分科会は、半導体デバイスを主としたデバイス・材料さらにはその関連システムにまで幅を広げ、応用物理学会の主要な下部組織としてアクティブに活動を続けている。こうした歴史的な流れを想うにつけ、川村肇先生らに始まる日本の「半導体研究」の原点に深い想いを馳せざるを得ない。 

 ― 六十年前から始まる半導体の研究 ―

「同好会・電子放射研究会」から応物学会「応用電子物性分科会」
 への流れの原点である川村肇先生