ランの花には、我々の身近にあるものだけでも君子ランから春ランに至るまで実に多種多様なものがある。
オーストラリアの乾燥した砂漠地帯では、風媒や不特定の昆虫による受粉が困難なため、花弁の一つがある特定のハエやハチの雌の形状そっくりに長い年月をかけて変形し、その特定の昆虫の雄が飛来するのを待つという。こうした特定の昆虫の雌の形状に形を変えたランの種類は110種類に及ぶとのことである。
種を残すためのこうした生態系の神秘的進化には人知の及ばない自然の摂理を知ることができ、畏敬の念を禁じ得ない。
20世紀前半物理学の分野で芽生えた量子力学は、「半導体」の概念を明確にし、トランジスタを生み出すと共に、20世紀後半における工学の分野での大爆発をもたらした。驚くべき自然の摂理は、整然とした物理学のミクロな理論にも及んでいる。
固体における電子の「トンネル効果」は、江崎博士が前記電気通信学会誌の特集号で、「トンネル効果には電子放射の仕事をしている当時から関心を持っていた」と述べているように、電子管の時代においても量子力学に基づく固体論は、電子放射に携わった者にとっては不可欠な学問分野であった。江崎博士によるトンネルダイオードの発明がもたらしたインパクトは、電子回路・固体物理の両面において計り知れないものがある。