ノーベル化学賞受賞者の田中耕一さんも、幾つかの運に恵まれ、それを活かしたところに幸運がもたらされた、と語っている。中村修二さんの場合も、幾つかの幸運の結果として「武田賞」受賞があったと思う。しかし、V−X族高品質薄膜結晶成長に苦労した体験を持つものとして、GaNの高品質結晶の作成をMOCVDで成し遂げられた御苦労と発想は決して凡人の成しうる所ではない、と深い敬意を払いたい。U−Yを選ばずGaNを選ばれたことも、運がよかったかも知れない。 また、その他の幾つかの運の中で、私の知っているもう一つの運を挙げるなら、中村さんが米国のフロリダ大学に留学され、ここで気相法による結晶成長法を学ばれたという事実もあるのでは、と思う。中村さんは、この留学で研究論文の無い者は研究者として見なされない惜しさを身を以って痛烈に体験された。研究論文に書くためにはオリジナリティの高い仕事をしなければならない。このことも中村さんの立派な仕事を成し遂げるための強力な刺激となったに違いない。 この米国留学に関しても運がついていた。当時、本命視されていた候補者が米国留学を辞退した。その代わりの米国留学候補者複数の中から中村さんの米国留学を社長に推薦したのは、かつて電気試験所神代分室に籍をおき、当時は日亜化学で開発部長を担当していた方であった、という。これも大きな運の一つではなかろうか。
武田賞フォーラムで「運が大きい」と中村さんが発言されたこと